脚本「忘却の罪⑤」
○ ため池・入り口
間柴「・・・」
赤いママチャリが倒れていた場所を見
つめている。
逃走経路と見られる方向を眺めて歩き
出す。
○ 新月川沿い
ため池のすぐ側にある川沿いに出る。
奥の道を見た後、手前の方へ歩き出す。
○ 新月川の側
小さな路地があり、家が石のブロック
塀で囲われている。
騒音もほとんど聞こえない。
間柴「(険しい表情)・・・」
○ 新月川沿い
間柴が辺りを見渡しながら歩いている。
○ 同・一ノ宮が落ちた階段
間柴「(腰を低くして)・・・」
階段の始めにある、躓いたと思われる
段差を見つめる。
間柴「(その体勢のまま、ため池の方を見る
様に振り向く)」
一ノ宮が落ちた階段から見えるため池
の入り口。
間柴「・・・」
間柴、立ち上がり階段の下を眺める。
そのまま川沿いを奥に向かって歩く。
○ 同・新月橋の手前
間柴、橋とは逆方向を見つめる。
○ 新月橋から見える道
2車線の道路を車が行き交う。
歩道を歩く人が2、3人いる。
道沿いは24時間営業のコンビニがあ
る。
間柴「(苦悶の表情)・・・なぜだ」
○ かなえの家・中
カーテンで閉め切られ薄暗い部屋の中。
かなえは手に写真を持っている。
側にある机の上には薬のタブレットが
散乱している。
かなえ「(写真を見つめ)はあ・・・」
ケータイのバイブの音が鳴る。
写真を机の上に置き、ケータイを手に
取る。
○ ケータイの画面
一ノ宮からで、『今度どこかドライブし
ませんか? どこへでも連れて行きま
すよ。』
と、メールが来ている。
○かなえの家・中
かなえ「(疲れた様に)はあ・・・」
机の上にケータイを置くとその横には
先程見ていた写真がある。
○ 机の上の写真
一ノ宮とかなえが写っている。
○ 多田の家・中(夜)
机の上にはビールの缶が2本置いてい
て、1本は飲み干され缶がへこんでい
る。
○ パソコンの画面
掲示板に文字が入力されていく。
「お前みたいな奴は僕が許さない。 消
されるのも時間の問題」
○ 多田の家・中(夜)
多田の背中が映る。 ビールの残りを
一気に飲み干す。
多田「(後ろ姿のまま)あぁ〜」
○ パソコンの画面
掲示板に「それ、殺害予告じゃないか?」
「通報しました」と書き込まれていく。
○ 多田の家・中(夜)
多田の口元がアップされニヤリと笑う。
○ パソコンの画面
掲示板の画面が消されると、デスクト
ップの画像になり、かなえが写った写
真になる。
写真は遠くから盗撮したような画像。
多田の声「君に不要な人は消していくよ」
と、囁く様な声。
○ 調剤薬局・中
出入り口のドアが開き、かなえが中へ
入ってくる。
かなえ「すみません、戻りましたー」
受付のおばさんに弁当が入った袋を渡
す。
かなえ「どうぞー」
受付のおばさん「ねぇねぇ! 有川さんそれ
見て」
と、弁当そっちのけで備え付けのテレ
ビを指差す。
○ テレビ画面
夏の渓谷特集で、渓谷の水の流れ、緑
いっぱいの森林が広がる。
受付のおばさんの声「昔、今の旦那とここに
行ってきたのよ。 そしたら途中吊り橋
があるんだけどすごく不安定で怖くてね。
旦那は怖くて私を前にして渡ったのよ」
○ 調剤薬局・中
受付のおばさんが笑いながら昔話をし
ている。
かなえ「・・・」
かなえは無言でテレビ画面を見つめる。
○ 警察署
○ 同・中
間柴がデスクに座り、眼鏡をつけ書類
を眺めている。
芽田が、間柴に近付いてくる。
芽田「間柴さん、どうしました」
間柴「(眼鏡を外し)あぁ、あの事件の事だが」
と言い、新月橋周辺の地図を開く。
○ 地図
地図には新月橋、ため池、中野の自宅、
一ノ宮の自宅、一ノ宮が発見された場
所にマークが付けられている。
○ 警察署・中
間柴「中野は毎朝、ウォーキングしているら
しい。 そして事件当日、このルートで
ウォーキングをしていた」
○ 地図
中野の自宅から新月橋を渡り、ため池
までを赤ペンで線を引く。
間柴の声「橋を渡り、ため池まで・・・」
○ 警察署・中
間柴「仮に一ノ宮が中野と接触したとしたら
このルートだ」
と、青いペンで線を引く。
○ 地図
一ノ宮の家からため池まで線が引かれ
ている。
一ノ宮の家からため池に行こうとする
と新月橋を渡らずに、川沿いに歩けば
到着できる。
そのルート同士が重なり合う場所は新
月橋の手前になっている。
○ 警察署・中
芽田「と言う事は一ノ宮が犯行を行った後、
現場から逃げようとしたが階段で躓き、
転落した」
間柴の声「いや」
間柴「普通なら」
と、地図にキャップの締まったペンで
なぞりだす。
○ 地図
間柴の声「誰にも見つかってはならないとい
う思いでこの通りより、人目につかない
こっちの通りを使うはずだ」
一ノ宮の来た道の反対側の道をなぞる。
○ 警察署・中
間柴「(写真を机に置き)これを見てくれ」
○ 写真
人目につかないようなブロック塀があ
る小道。
○ 警察署・中
間柴「24時間営業のコンビニの側を通るよ
り、この道を選んだ方が目撃されないだ
ろう」
芽田「(写真を手に取り)確かに・・・」
間柴「しかし、一ノ宮はその経路を選んだ。
そして乗ってきた自転車を置いてきた。
証拠となる物なのに」
もう間柴は全て悟ったかのように肘を
机に立て、顔の前で手を組む。
芽田「間柴さん・・・」
間柴「あれは逃げたんじゃない、 追われて
いたんだ」