TOCCHI-NICOLSON

気の向くままに

脚本「忘却の罪⑩」

 

  かなえの家・中(夜)

   一ノ宮とかなえが部屋に少し離れて座

   っている。 二人は沈黙し、テレビか

   ら流れる音が響いている。

かなえ「はじめさん、夕ご飯の食材買ってく

  るね」

一ノ宮「・・・うん、わかった」

   かなえが、家を出る準備をする。

かなえ「行ってきます」

   かなえが家を出て行く。

一ノ宮「・・・」

   机の上に置いているリモコンを手に取

   り、テレビのチャンネルを変える。

 

  テレビ画面

   ニュース番組に変わり、記憶喪失のピ

   アニストが記憶喪失が嘘だったと報じ

   られている。

 

  かなえの家・中(夜)

一ノ宮「・・・」

   無言でテレビの電源を消す。

   周りを見回す一ノ宮。 棚の上に一ノ

   宮と、かなえが写る写真が飾られてい

   る。

一ノ宮「・・・」

   そのまま目を下にやると引き出しがあ

   る。

一ノ宮「・・・」

   引き出しに手をやり、ゆっくりと開け

   ると写真のアルバムが入っている。

一ノ宮「・・・」

   アルバムをめくるとかなえの小さい頃

   の写真が入っている。

一ノ宮「(つぶやく様に)変わらないなー」

   アルバムの真ん中は飛ばし最後の方を 

   見る。

一ノ宮「ん・・・!?」

 

  写真

   肩までかかる髪に赤い淵の眼鏡をかけ

   たかなえの姿。 一ノ宮とかなえが並

   んでピースをしている。

 

  かなえの家・中(夜)

一ノ宮「(息が早くなる)え・・・」

   アルバムを落とす。 息が上がり肩を

   大きく揺らす一ノ宮。

一ノ宮「はぁ、はぁ」

   頭を抱え、そのまま倒れる。

 

  かなえの家・前(夜)

   スーパーの袋を片手に歩いているかな

   え。

 

  かなえの家・中(夜)

 かなえがドアを開け入ってくる。

かなえ「ただいま〜」

   靴を脱ぐ。 一ノ宮の靴も置いてある。

   リビングに通じる廊下を歩き、ドアを

   開ける。

かなえ「えっ・・・」

   乱れた室内。

かなえ「(スーパーの袋を置き)・・・はじめ

  さん?」

   引き出しが開けっ放しで、アルバムが

   落ちているのを見つけ近付く。

かなえ「(口を押さえる)はっ・・・」

   長髪で赤い淵の眼鏡をかけたかなえの

   写真が見開きで落ちている。

かなえ「(愕然)・・・」

 

  道路(夜)

   くたびれるように走る一ノ宮。

一ノ宮「(走っている)はぁ、はぁ」

   裸足で走っている一ノ宮。

一ノ宮の心の声「僕は、僕はあの日・・・」

 

  回想・一ノ宮の家(早朝)

   アパートのベランダであくびをしてい

   る一ノ宮。 

一ノ宮の声「あの日僕は、足の痛みで朝早く

  起きた」

一ノ宮「(下を見つめる)ん・・・」

   一ノ宮の家の前を歩くかなえ。

一ノ宮「ちょ、ちょっと」

   足を引きずりながら部屋に戻る。

一ノ宮の声「なんで、こんな時間に? なぜ

  かなえはこんな時間に出歩いているんだ

  ろうと、僕は後を追った」

 

  一ノ宮の家・前(早朝)

   痛がりながらも自転車に股がる。

 

  道路(早朝)

   片足だけで自転車のペダルを漕ぐ。

一ノ宮「あっ」

   かなえが前を歩いている。

   片足だけでゆっくりと漕ぐ。

一ノ宮「(ブレーキをかけ止まる)えっ・・・」

 

  自転車の車輪

   車輪の動きが止まり左足を地面につけ

   る。

 

  新月橋(早朝)

   新月橋でかなえと中野がばったり会う。

   二人で立話しをしている。

 

  道路(早朝)

   ハンドルを握り、二人を見つめる一ノ   

   宮。

 

  新月橋(早朝)

   中野が話しから逃げるようにかなえを

   置いて歩を進める。 それを追いかけ

   るようにかなえが着いていく。

 

  道路(早朝)

一ノ宮「・・・」

 

  新月橋(早朝)

   一ノ宮が恐る恐る歩いていった方向を 

   見る。 

   ため池の方へ歩いていく二人。

一ノ宮「・・・?」

 

  ため池・入り口(早朝)

   スタンドを立てて赤色のママチャリを

   置いている。

 

  ため池(早朝)

   ゆっくりと一ノ宮が歩く。

   少し遠くでかなえと中野が立っている。

かなえ「もう、手を出さないで下さい」

中野「私はあなたが憎いの、あなたが桜木君

  から手を引かなかったからこうなるの」

かなえ「それとこれは関係ない」

  中野がしゃがみ白い花を見ている。

中野「あなたが新しい蕾を咲かせよとした

  って」

   白い花を摘む中野。

中野「(白い花を見せつけ)私はそれを摘んで

  枯らすだけ」

一ノ宮「・・・」

かなえ「・・・」

   かなえと中野がつかみ合う。

   かなえが押すと中野が鈍い音と水がは

   ねる音をならして、ため池に落ちる。

かなえ「はぁ!・・・」

   その場で座り込み、震える手で口を塞

   ぐ。

一ノ宮「(後ずさりする)・・・」

   一ノ宮が足下に落ちていた枯れ木を踏

   みつけ音がなる。

かなえ「(振り向く)誰!?」

   一ノ宮が足を引きずりながら逃げる。

一ノ宮「なんで・・・なんで・・・」

   かなえも立ち上がり、一ノ宮の後を追

   いかける。

 

  ため池に浮かぶ白い花(早朝)

   ピントは白い花に当てられているが、

   白い花の向こうに中野のピンクのジ

   ャージが際立つように浮かんでいる。

 

  ため池・入り口(早朝)

   赤いママチャリに乗ろうとするが足

   がもつれママチャリを倒す。

   そのまま新月橋の方向まで走って逃げ

   る一ノ宮。

かなえ「待って、待って・・・」

   かなえが走って追いかける。

 

  新月川・土手沿い(早朝)

   足を引きずりながら走る一ノ宮。

一ノ宮「(息切れしている)はぁ、はぁ」

   川岸に釣りをしているおじいさんを見

   つけ階段にめがけて走る。

一ノ宮「(釣りをしているおじさんを見る)は

  ぁ、はぁ」

かなえ「待って・・・待って!」

   階段に躓き階段から落ちていく一ノ宮。

 

  回想終・暗闇

 

  新月川・土手沿い(夜)

   うなだれて立ち尽くす一ノ宮。

一ノ宮「・・・そっか、かなえ・・・」

   裸足のまま、すり足で進む。

   階段の一番上に立つ。

一ノ宮「(見下ろす)・・・」

 

  かなえの家・中(夜)

   玄関のドアが静かに開く。

   間柴が顔を出す。

間柴「有川さん」

   間柴がゆっくり家の中へ入り、リビン

   グのドアを開ける。

   かなえは部屋のどこにもいない。

   棚の引き出しが開けっ放しになってい

   る。

間柴「・・・?」

   アルバムに近付く。

間柴「(首をかしげる)なんでここだけ・・・」

   アルバムと乱れた室内を見比べる。

間柴「まずいな・・・」

   間柴立ち上がる。

 

  新月川・土手沿い(夜)

   息を切らしたかなえが一ノ宮を見つけ

   る。

かなえ「(息を切らして)はじめさん、はぁ、

  はぁ、・・・はじめさん!」

一ノ宮「かなえ・・・」

かなえ「(涙を浮かべて)ごめん・・・ごめん

  なさい・・・」

   と、一ノ宮にゆっくり近づく。

一ノ宮「・・・」

かなえ「(一ノ宮に抱きつき)・・・ごめんな

  さい」

一ノ宮「(涙を浮かべる)・・・」

かなえ「(泣きながら)もう、私こうしていら

  れない。 罪を、償わなくちゃ、罪を・・・」

一ノ宮「(涙を浮かべ)隠すのは辛かったろ」

かなえ「(泣きながら)ごめんなさい、ごめん

  なさい」

一ノ宮「(涙を浮かべ)・・・記憶が無くなっ

  ても」

かなえ「(泣いている)・・・」

一ノ宮「(泣きながら)・・・きっとまた愛せ

  るのかな」

かなえ「(泣いている)・・・」

一ノ宮「(泣きながら)・・・愛してくれ」

   一ノ宮が、階段からかなえを突き落

   とす。

   スローモーションでかなえが落ちてい

   く。 かなえは驚きと悲しみの表情。

   階段の上に一ノ宮が佇んでいる。

間柴の声「一ノ宮君!」

   間柴がこちらに近付いてくる。

一ノ宮「(涙を流しながら)間柴さん・・・」

間柴「(一度立ち止まり)こんな所でどうした

  ?」

一ノ宮「かなえが、かなえが階段から落ちま

  した」

間柴「(驚き)な、なんだと」

   間柴が階段の下を見る。

間柴「(驚き)有川さん!」

   階段を急いで降りていく。

 

  新月川・川岸(夜)

   かなえが倒れている。

   間柴が近付き、かなえの体を揺する。

間柴「かなえさん! かなえさん!」

かなえ「(寝ている様な顔)・・・」

 

  新月川・土手(夜)

   一ノ宮はその場に座り込み、うなだれ

   る。