脚本「忘却の罪④」
○ かなえの家・中(夜)
真っ暗な部屋でパソコンの画面が光っ
ている。
かなえが赤い眼鏡をつけてパソコンを
見つめている。
眼鏡に画面が反射している。
○ 東野中央病院・外
多田に連れられて一ノ宮が病院を見上
げる。
一ノ宮「・・・」
多田の声「さあ、中へ入ろう」
○ 東野中央病院・外観
○ 同・受付
受付の女が一ノ宮の方を見ている。
○ 同・廊下
すれ違う看護師が目を合わせないよう
に歩く。
多田「・・・気にするな。 そのうち打ち解
けるさ」
一ノ宮「そう信じたいね」
一ノ宮と多田、エレベーターに乗り込
む。
エレベーターの扉が閉まる。
○ 同・事務室
女性2人がパソコンに向かっていて、
一番奥のデスクには院長がパソコンを
眺めながらマグカップに入ったコーヒ
ーを飲んでいる。
ドアが開く。
多田「失礼します」
一ノ宮「・・・失礼します」
事務員の女が一度二人を見るが、直ぐ
にパソコンの画面に目を戻す。
院長「(メガネを下にずらし)おぉ、一ノ宮君、
久しぶり」
多田「(小声)あそこのおじさんが院長だから」
と、口元を片手で隠しながら話す。
一ノ宮「こんにちは」
院長「大変だったみたいだね(マグカップに
口をつける)」
一ノ宮、多田2人が院長に近寄る。
一ノ宮「はい・・・まだ全てが終わったわけ
ではありませんが」
院長「そうか。 なにはともあれ退院が出来
てよかったよ・・・そうしたら多田に院
内の案内をしてもらうから、ゆっくり見
ていってくれ」
一ノ宮「わかりました」
院長「(一ノ宮に)もし困った事があればど
んどん言ってくれよ」
一ノ宮「はい。 ありがとうございます」
○ 同・廊下
一ノ宮「いい人そうで良かった」
多田「いやぁ今だけだよ。 いつもは無愛想
で怖いオヤジだよ」
一ノ宮「そんな風には見えなかったけどな(笑
う)」
多田「はじめ、そういうお人好しの所は昔と
変わってないな」
一ノ宮「そうなの?」
と、二人で笑う。
○ 同・休憩室・前
休憩室の中には白衣を着た女二人が談
笑しながら弁当を食べている。
多田「ここが休憩室。 弁当の注文も出来る
から、必要だったら教えてくれ」
一ノ宮「(うなずく)」
多田「じゃあ次は」
と、休憩室の前から他の場所に移動し
ようとする。
一ノ宮「多田」
多田「ん? どうした?」
一ノ宮「・・・調剤薬局はどこにあるんだ?」
多田「(声のトーンが落ちる)あぁ、調剤薬局」
一ノ宮「(うなずく)」
○ 調剤薬局・中
ドアが開く。
多田「こんにちは」
受付のおばさん「(顔を上げる)こんにちは。
今日はどうしたの?」
一ノ宮が多田の横に並ぶ。
受付のおばさん「あら、一ノ宮君じゃないの。
元気にしてた?」
一ノ宮「あ、はい・・・」
受付のおばさん「あ、まだ記憶が戻ってない
って言ってたわね」
多田「そう、だから今場所を覚えてもらって
いる所なんです」
受付のおばさん「そうなの。 それじゃあゆ
っくり見ていってね」
多田「(受付カウンターの奥を見る)おばさ
ん今日は・・・」
受付のおばさん「あぁ今日は有川さん休みだ
よ。 最近、なんか疲れているみたい。
ずっとパソコンと向き合っているからね
ぇ」
多田「(残念そうに)そうですか・・・じゃあ
戻ろうか」
一ノ宮「うん・・・」
○ 町(夕)
2車線の道路を車が行き交っている。
歩道を並んで歩く、一ノ宮、多田。
一ノ宮「・・・」
多田「今日、どうだった?」
一ノ宮「・・・時間はかかるかもしれないけ
ど、良い人達そうだし仲良くしていける
と思う」
多田「そうか、みんな良い人だもんな」
一ノ宮「・・・その・・・中野っていう人も・・・?」
多田「(驚く)えっ・・・」
一ノ宮「・・・」
多田「・・・な、なんだよいきなり、・・・
ビックリするじゃん」
一ノ宮「ごめん・・・でも気になっているん
だ。 どんな人だったんだろうって・・・
もし、中野っていう人が良い人なら俺は
何もしていないだろうけど・・・悪い人
なら」
歩道を歩いていると新月橋まで着く。
○ 新月橋から見える新月川(夕)
○ 新月橋(夕)
新月橋を渡る一ノ宮、多田。
一ノ宮「俺と中野さんの間で何かあった?」
多田は橋の手すりにもたれ掛かる。
多田「・・・中野さんは色んな人と噂が絶
えなかった・・・医者や患者、前の病院
の院長とも関係を持っているほどの人だ」
一ノ宮「・・・」
多田「・・・はじめ・・・確かにお前も中野
さんから関係を持ちかけられていた」
一ノ宮「えっ・・・」
多田「ただ、それがはじめを犯人に結びつけ
る事じゃないって信じてる」
一ノ宮「・・・」
多田「でも・・・もしそうだとしたらどうす
る?」
一ノ宮「(驚きつつ)・・・自首するさ」
多田「かなえちゃんはどうする」
一ノ宮「(一瞬驚いた表情)・・・諦めるよ」
多田「そうか・・・」
と、一ノ宮に見えないようにニヤリと
笑う。
多田「(軽い口調で)でも、そんな事は無いっ
て俺は信じてるから」
一ノ宮「・・・ありがとう」
多田「・・・」
○ 丘の上(夜)
町の景色が一望出来る場所。 町の中
心部意外は灯りが少ない。
2人掛けのベンチにかなえが座ってい
る。
かなえ「(悲しげな表情)・・・」
ベンチの空いたスペースを眺め、手を
添える。
かなえ「(目を瞑る)・・・」
ベンチに座っているかなえの後ろ姿。
○ 満天の星空
○ 丘の上(夜)
かなえ「(目を開け見上げる)・・・」
かなえの目に溜まった涙が月明かりで
強調される。